| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-090

ウミショウブにおける月周リズムに同調した一斉開花と花発生のメカニズム

*中川昌人,木本行俊,高相徳志郎(地球研・西表プロジェクト)

ウミショウブ(Enhalus acoroides (L.f.) Royle:トチカガミ科)は、インド洋から太平洋北西部に分布する大型の海産被子植物で、日本では石垣島・西表島に生育している。雌雄異株であるこの植物は、水上媒と呼ばれる送粉様式をもち、花粉をもつ雄花が個体から切り離され、水面を移動し雌花まで運ばれる。さらに、開花が月周リズムに同調し、大潮の最干潮日とその翌日に一斉に開花し、潮の干満を利用し送粉を行うことが知られている。海域の生物種の繁殖においては月周リズムが時に重要な役割を果たすと考えられているが、このような繁殖様式は海産被子植物の中でも非常にユニークなものである。しかしながら、ウミショウブの一斉開花のメカニズムについては、幾つかの仮説が提唱されているものの、ほとんど明らかにされていないのが現状である。

本研究ではウミショウブの一斉開花メカニズムの解明を目的として、雄花・雌花の発生過程の解析を行った。必要なサンプルは主に2006年6月から8月にかけて採集を行い、切片作成による解剖学的な観察を行った。その結果、雄花においては減数分裂による花粉形成が継続的に行われていることが明らかとなり、月周リズムと同調したパターンは観察されなかった。同様に、雌花においては、成熟した胚のうの形成は早くとも開花の10日前には認められたが、開花前の胚珠の大きさにはばらつきが見られた。したがって、ウミショウブの配偶体形成のパターンは月周リズムとの明瞭な対応関係は認められず、開花における月周リズムとの同調は個体レベルでの環境変化への応答によってもたらされている可能性が高い。

日本生態学会