| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-091

アブラナ科ミチタネツケバナにおける雄蕊数多型

*松橋彩衣子,工藤洋(神戸大・理)

多くの被子植物において、花器官の数は種内で一定している。そのため、花器官数の多型が報告されると、それは何らかの発生異常として捉えられる場合が多い。しかし、多型が野外集団内で恒常的に観察される場合には、その変異が適応に結びついている可能性がある。

アブラナ科植物の多くが6本の雄蕊を持っている中で、ミチタネツケバナは雄蕊が4本であることが特徴とされてきたが、ごく低頻度で5本、6本の雄蕊をもつ個体が現れることがこれまでに報告されていた。しかし、神戸市郊外の野外集団で2月下旬から4月上旬にかけて調査を行ったところ、花期の初期には6本の雄蕊を持つ花をつけた個体が多く、花期が進行するにつれ5本、4本の雄蕊を持つ花の割合が増加する様子が観察された。

本研究は、この雄蕊数の多型の原因を突きとめ、花器官はどのような状況でいかに進化しうるのかという疑問に一つの解答を見出すことを目標としている。そこで、まずは多型を生じうる要因として、気温と花序内での開花順に着目し、『気温が上昇すると雄蕊数は減少する』、『花序内で後に咲く花ほど雄蕊数は減少する』という仮説を立てた。これらの仮説を検証するために、生育温度を昼夜一定の15℃/15℃と夜間低温の15℃/5℃の2条件に分けて栽培実験を行った。15℃は野外では4本の雄蕊をつけた花の割合が増加する時期の気温に相当する。その結果、2条件共に5本または6本の雄蕊をつけた花が多数を占めた。低温による雄蕊数の増加が見られなかった点と、実験では4本の雄蕊をつけた花の割合が最も少なくなった点から、夜間の低温は雄蕊数の減少に影響を与えていないと考えられる。また、花序内の開花順の効果も検出することはできなかった。本発表ではこれらの結果と今後の展望について報告する。

日本生態学会