| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-096

北極圏と日本に生育するムカゴトラノオの性質

*冨田美紀, 増沢武弘(静岡大学 大学院)

*冨田美紀1・増沢武弘1・神田啓史2 (1静岡大学・2国立極地研究所)

ムカゴトラノオは花茎に有性生殖である花と栄養繁殖であるムカゴをつける多年生草本植物である。周北極要素の植物であり、分布の南限が日本の高山帯となっている。花は開花してもほとんど結実せずに落下してしまい、繁殖は主にムカゴを用いて行う。この植物は、環境によって花とムカゴの割合が変化しているという報告がある。

本研究では、ムカゴトラノオの環境による花とムカゴの割合の違いをとらえるために、ノルウェーのスバールバル諸島、ニーオルスンにおいて花茎につける花とムカゴの数、葉の形態、バイオマスについての比較と環境の調査を行った。

結果として、極端に花茎が長くほとんど花をつけないタイプが土壌の乾燥した場所に優占して生育していた。また、乾燥した場所には花茎は短いが大きな花とムカゴをつけるタイプも生育していた。一方、花茎の短いタイプが湿った場所に生育しており、ムカゴの色が赤いタイプと黄色いタイプが生育していた。調査地には大きく分けて4タイプのムカゴトラノオが生育していた。

各タイプのバイオマスを解析した結果、乾燥地に生育するタイプにおけるムカゴのバイオマスは両者で違いは見られなかったが、数と重量に負の相関が見られた。花茎が短いタイプは地下茎・根生葉のバイオマスが比較的大きかった。湿潤地に生育している2タイプでは地下茎・根生葉・花茎のバイオマスは類似した値を示した。乾燥地の2タイプでは地下茎のバイオマスが湿潤地の2タイプより大きく、地下茎のサイズに土壌環境が関係していると考えられる。

北極圏に生育しているムカゴトラノオは乾燥地において繁殖様式に顕著な違いが見られた。ムカゴの数の多い繁殖様式が優占しているが、花が多くムカゴのサイズが大きな繁殖様式もわずかに存在した。これは、環境の変動に対しての保証の役割を担っているものと思われる。

日本生態学会