| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-097

択伐地ギャップのササ植生におけるブナ稚樹の1次枝形態変異

八木貴信(森林総研 ・東北)

林冠ギャップの形成は高木稚樹に更新の重要な機会を与える.しかし,ギャップ形成による光環境の改善は稚樹の成長だけでなく周囲植生の成長も促し,下層植生に厳しい競争をもたらす.さらにギャップの存在は下層光環境の不均一性も増加させる.よって稚樹が更新成功するには,ギャップ形成によって増大した下層での競争強度と光環境不均一性に適切に対処し,効率的な物質生産システムを構築する必要がある.それゆえにギャップ下の高木稚樹の更新戦略には,樹形可塑性およびその結果つくり出される樹形非対称性が重要になる.

樹形非対称性に対する理解を深めるには,一次枝(主幹から直接分枝した枝)の特性変異を明らかにすることが重要である.樹形の大枠は主幹と一次枝から成り立ち,樹冠特性(伸長量やシュート密度など)の個体内変異は,(1) 樹冠内の一次枝配置,(2) 一次枝特性の変異,の2要因によって決定されるからである.一次枝の機能と性質はそのサイズによって異なるはずなので,一次枝の特性変異はそのサイズと関係づけて議論する必要がある.一次枝の特性とサイズとの関係は,樹形の主要フレームワークとして機能するメジャー枝,その間を埋めて空間の有効利用に寄与するマイナー枝の分化パターンを明らかにする上でも重要で,樹木の物質生産を理解するための基本要素である.

本研究は,ギャップ下での樹形発達の中,一次枝特性の変異が示すパターンを明らかにするために,ササなどの下層植生が繁茂する択伐地ギャップに生育する様々なサイズ(樹高0 - 250 cm)のブナ稚樹を対象として,樹冠各部位における一次枝数,一次枝長の頻度分布,一次枝の特性(茎長総計,シュート数,当年伸長量など)と長さとの関係を明らかにし,周囲環境との相互作用の中で一次枝特性の変異が果たす機能について考察する.

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