| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-098

光環境の季節性が作り出す植物の生産と繁殖のパターン 〜落葉広葉樹林の林床植物にみられる資源利用特性〜

*井田崇, 工藤岳(北大・院・環境科学)

落葉広葉樹林下の光環境は時空間的に多様である.早春の雪解け直後は日射が林床に直接降り注ぎこみ明るいが,初夏に林冠木の展葉が始まるにつれ急激に暗くなる.また,林冠閉鎖後の光環境は,森林のギャップ形成動態に応じて局所的に異なる.

林床植物の開花フェノロジーは,季節的な光環境の推移により3グループに分類される:(1)「春植物」は,林冠閉鎖までの短期間で生産と繁殖を終える,(2)「初夏咲き植物」は,光が減衰する初夏に開花し,暗い環境で果実生産を行う,(3)「夏咲き植物」は,開花と果実生産の両方を林冠閉鎖後の暗い環境で行う.繁殖成功(果実数/花数)は,春植物と夏咲き植物で高く,初夏咲き植物で低い.

光資源が変動する環境で,繁殖や成長への資源分配がどのように行われているのかを知ることは,光資源の利用形態を反映した生活史特性を明らかにする上で重要である.生産・繁殖様式を明らかにするため,生育期間中に光環境が劇的に変化する初夏咲き多年生草本2種、コンロンソウ(アブラナ科)とユキザサ(ユリ科)を用いて,成長・光合成機能・同化産物の分配パターンを林床とギャップにて調査した.

両種とも栄養成長と貯蔵器官への光合成産物の転流は林冠閉鎖までに完了し,当年の繁殖投資は主に林冠閉鎖後の生産に依存していた.ギャップでの光合成の光馴化は,コンロンソウでのみ見られ,果実生産はギャップで増加した.一方で,ユキザサはギャップでも果実生産は変化せず,選択的果実生産やポリネーター誘引効果のため余剰花を生産しているのかもしれない.

初夏咲き植物の生活史特性の種間差とともに,春植物や夏咲き植物の資源利用様式を比較することにより,林床植物群集の光資源の時間変動を反映した生産・繁殖特性について議論する.

日本生態学会