| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-106

植物における防御戦略の進化:食害者からうける被害(量、確率)が与える影響

*伊藤 聖(東北大・院・生命科学),酒井 聡樹(東北大・院・生命科学)

植物は食害をうける。それに対抗するために、防御物質を作って食害率や食害量を減らす戦略が進化している。例えばクローナル植物では、食害を受けたラメットがシグナルを出して、他のラメットに防御物質を誘導するものがある。しかし、シグナルによる誘導機構が進化していない植物もある。一見有利そうに思える防御の誘導だが、なぜ、防御戦略におけるこのような多様性がみられるのか。本研究では、シグナルによる防御の誘導に注目して、植物の最適な防御戦略を解析した。

【モデル】防御物質を持っていると、食害量または食害率が低下すると仮定する。しかし、防御物質を持つことにはコストがかかり、成長速度が低下する。この仮定の下で、以下の五つの戦略のうち、どんな環境でどの戦略が有利になるかを解析した。

1、防御物質を持たない。

2、食害量を低下させる防御物質をあらかじめ持っている。

3、食害率を低下させる防御物質をあらかじめ持っている。

4、食害をうけた後に、食害量を低下させる防御物質を誘導する。

5、食害をうけた後に、食害率を低下させる防御物質を誘導する。

【結果】食害量に関わらず、食害率が低い環境では1が有利である。防御物質を持たずにおき、食害を受け後にシグナルによる誘導をするということもしない(4も5も行わない)。これは、食害率が低い環境では、食害を受けて防御物質を誘導しても、それが無駄になる可能性が大きいためである。食害率が高い環境では、食害量が大きくなるにつれて、5->4->3->2の順で有利な戦略が変化する。シグナルによる誘導が不利となるのは、最初の食害量が大きいと、新たに防御をすることの意義が小さくなるためである。

日本生態学会