| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-130

河川性グレイザーにとって明るいことはいいことか?

*三宅洋, 崎村紀彰, 金澤康史(愛媛大・院理工)

利用可能な光量の増加は一次生産量とグレイザーのバイオマスの増加を引き起こす.河川上流部では,河畔林の樹冠が失われると底生動物グレイザーの量が増加することが知られており,この原因としては光量の増加に伴う河床礫上の藻類生産量の増加が挙げられている.しかし,藻類生産量の増加と同時にグレイザーの量も増加するため,グレイザー1個体あたりの採餌量が必ずしも増加するとは予想されない.そこで本研究は,河畔林の消失区間と現存区間との間で,光量,付着藻類の生産量と底生動物グレイザーの量および採餌量を比較することにより,光量の増加が一次生産量の増加を介して底生動物グレイザーに及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.

愛媛県を流れる重信川水系岩屋小屋川の河畔林現存区および伐採区に各4ヶ所の調査地を設置した.各調査地に底生動物採取用と付着藻類生産量計測用の人工基質(花崗岩製タイル)を5枚ずつ設置した.28日後に全てのタイルを回収し,直上で全天空写真を撮影するとともに,採餌量測定用の底生動物を採取した.

この結果,河畔林現存区よりも伐採区で開空度が高く,藻類生産量とグレイザーのバイオマスも多いことが明らかになった.樹冠の消失により河床に到達する光量が増加し,藻類生産量とこれを摂食するグレイザーの量が増加したものと考えられる.一方,グレイザーの採餌量は現存区よりも伐採区で少なかった.また,開空度が高い場所ではグレイザー1個体あたりの採餌量が少なくなった.伐採区ではグレイザーが過度に集中し,採餌量が減少したものと考えられる.以上より,光量の増加は一次生産量の増加を介してグレイザーの総量を増加させるが,光量が多い場所への移入は各グレイザー個体の生存にとって必ずしも有利ではない可能性が示唆された.

日本生態学会