| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-152

新しい分岐年代推定法の開発と実装

田辺晶史(東北大・院・生命科学)

近年,系統樹を用いて生物の多様性を評価したり,群集の形成史やメカニズムを明らかにしようとする「群集系統学」とでも呼称すべき新たな分野が加速度的に発展しつつある.これは,進化生物学と生態学の統合によって,現在の自然環境を歴史的文脈の中で解釈しようとする古くからあった流れの最も新しい事例の一つである.

この群集系統学において鍵となる技術の一つが分岐年代推定である.「系統樹に時間軸を入れる」という分岐年代の推定は,系統樹上の遺伝距離を時間的な距離に変換することを可能にし,生物の多様性をその形成に要した累積時間によって評価することができるようになる.地質イベントや他の生物群の分岐年代と対比することにより,群集の形成史を明らかにする上でも大変役に立つ重要なツールである.

ところが,1990年代後半までは分岐年代の推定は分子進化が一定な場合にしか行えず,その不確実性の評価も難しかった.そんな中,1997年にSandersonが,1998年にThorneらが,分子進化の一定性が担保されない場合でも分岐年代の推定を可能にする方法を発表することでこの状況が打破され,これらの方法を適用した研究が多数公表されるに到っている.これらの方法は,較正点の分岐年代を,単一の固定値ではなくある程度の幅を持つ年代制約として与えることや,多数の較正点間での矛盾を解決する方法を与えた点でも画期的であった.

しかし,Sanderson (1997) のNPRS法には「非効率な最適化アルゴリズム」と「非節約的な罰則関数」という問題があることが判明した.そこで,これら二つの問題点を解決する方法を開発し,新しい分岐年代推定ソフトウェアとして実装した.今回の発表では,新手法の概要と,NPRS法と新手法を多数の較正点が利用可能な系統樹に適用し比較した結果を報告する.

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