| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-171

複数遺伝子座からみたミヤマタネツケバナの分断分布と進化史

*池田啓(京都大 人間・環境),仙仁径(首都大 牧野),藤井紀行(熊本大 自然科学),瀬戸口浩彰(京都大 人間・環境)

更新世の気候変動により生物は分布を繰り返し変化してきた。この分布域変遷が生物の進化にどのような影響を与えたかは議論され続けられており、1つの側面として次のような2つの対立仮説が考えられている。一方では、分布変遷に伴う集団サイズの変動が遺伝的分化を引き起こし、種の多様化を促したとする仮説である。他方では、分布が拡大することで分化した集団が混ざり合い、遺伝子流動によって分化が失われ進化的に停滞状態であったとする仮説である。この2つの対立仮説を検証するため、日本列島の高山帯にのみ遺存的に分布しているミヤマタネツケバナ(Cardamine nipponica)の遺伝的構造を10個の核遺伝子のシーケンスをもとに明らかにした。IMモデルに基づく集団遺伝学のパラメーターから、更新世の気候変動による分布変遷で異なる歴史を経たとされる2地域の個体の間では遺伝子流動が見られなかった。このことは、分布拡大に伴う遺伝子流動が隔離されたレフュジアの遺伝的構造には影響を持たないことを示唆している。今回解析した全ての遺伝子座が中立であることから、レフュジアへと後退する中で、ボトルネックによる遺伝的浮動が分化の大きな要因と考えられるが、レフュジアとされる地域間での非同義置換が比較的多く見られたことから、レフュジアにおける地域適応も遺伝的分化に影響をもった可能性も考えられる。これらのことから、更新世の気候変動に伴う分布変遷では、分布拡大により分断された集団が混ざり合うことで進化的に停滞したわけではなく、分断分布に伴う遺伝的浮動と地域適応により遺伝的分化を引き起こすことが示された。

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