| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-174

ババヤスデ属の交尾器形態進化

*田辺 力(熊大教育),曽田貞滋(京大院理)

交尾器形態の進化要因として性選択が考えられているが、詳細は不明な点も多い。演者らはババヤスデ属について集団を解析単位とし、形態解析、分子系統、交尾様式観察等により交尾器形態の進化要因の解明を進めている。ババヤスデ属の雌交尾器は特異な構造をしており、生殖口をそれに付随するジャバラにより内部へと引っ込めることができる。交尾時には雌の生殖口と雄交尾器先端のハサミ部位とが雌交尾器内部でかみ合い、精子の受け渡しが行われる。雌が生殖口を引っ込めると、雄はより奥へ交尾器を挿入しなければ授精できないので、雌交尾器サイズと雄交尾器サイズの間には、性的コンフリクトによって軍拡競走が生じるものと考えられる。交尾器コスト(交尾器重/体重)を軍拡競争の強さの指標とし、その値の属内での分布をみると、ミドリババヤスデ群(種複合体)において平均、分散ともに大きかった。本群では、体重に対する交尾器重の回帰係数の値も大きく(体サイズの大きい集団ほど交尾器サイズもより大きくなる)、雌雄交尾器の無理なかみ合いにより生じると思われる傷も多く見られる。これらの結果から、属内での軍拡競争の強さはミドリババヤスデ群において最も高いものと思われる。また、本群は属内で最も体サイズが大きい。これと回帰係数の大きな値とを合わせて考えると、体サイズの増大が軍拡競争の強化につながっている可能性もある。ミドリババヤスデ群と姉妹関係にあるキシャヤスデ群との間で、交尾時に重要な役割を担う雄交尾器のハサミ部位の形態多様度を比較すると、より強い軍拡競争が作用していると思われるミドリババヤスデ群の方で低い。一般に性選択は交尾器形態の多様化を促進すると考えられているが、強い軍拡競争の元では、交尾器はある特定の機能形態へと収斂し、形態多様化が抑えられることもあるのかも知れない。

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