| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-188

シロアリの捕食者オオハリアリ種群の分類学的再検討及びUSA侵入個体群の起源

*矢代敏久, 松浦健二(岡大院・環境)

社会性昆虫であるアリ科は、古くからその多様な生態と多様な社会適応により多くの研究者を魅了してきた。分類学的にもアリ科において多くの研究が行われてきており、今日までに全世界で約10000種ものアリが記載されている。日本でも、アリ科は他の分類群に比べ良く研究されていると言え、全体的な分類学的枠組みは既にまとめられていると考えられている。

オオハリアリは東アジアから東南アジアにかけて広く分布しており、日本でも北海道以外のほぼ全国に見られる普通種のアリである。本種はシロアリ食に特化したアリである可能性が示唆されており、実際に野外においてシロアリコロニーに隣接して巣を形成し、グループハンティングを行うことにより効率よくシロアリを自分たちの巣内に持ち帰り、餌として貯蔵するという洗練された採餌行動を行う。また、本種はアメリカ合衆国など世界各地に侵入しており、人が刺されるとアナフィラキシショックを引き起こす危険性があり、さらに侵入先で在来のアリを駆逐し生態系へ悪影響を及ぼすという観点からも注目すべき昆虫である。

日本、台湾およびアメリカ合衆国で採集したオオハリアリを、ミトコンドリアDNAのCO I領域の塩基配列(608bp)に基づき系統樹を作成した結果、日本産オオハリアリは近縁種であるツヤオオハリアリによって分断される異なる2つのクレードに分かれた。このオオハリアリのクレード間における形態的な区別点を模索した結果、腹柄節幅を頭幅で割った値が両クレード間で全く異なっていた。このことから、これまでオオハリアリとされていたアリには遺伝的にも形態的にも異なる2種のアリが含まれていることが判明した。また、アメリカ合衆国産オオハリアリの塩基配列は2つの日本産オオハリアリクレードのうち片方のクレード内に含まれ、日本からアメリカ合衆国へ侵入したことが示された。

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