| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-191

水田におけるフナ類の粗放的養成がイネの生育に与える影響

*井口恵一朗,鶴田哲也,山口元吉(中央水研),多田翼,小寺信義(東海大)

稲田水域における魚類の役割を明らかにすることを目的に,実験水田を使ってイネの栽培を行ってきた。4×9mの水田4筆を直列に配した流水池4面を用意し,各池の2筆の水田にはフナ類を添加し,残りの2筆には無添加とした。肥料の投与は最小限に留め,無農薬,無給餌条件下で,稲田養魚を実施した。一歳以上のフナを供した昨年度(2006)の実験では,次の結果を得た。ユスリカ類やイトミミズ類を中心とした底棲無脊椎動物の多様度指数は,フナ添加田で相対的に低い値を示した。フナ無添加田ではウキクサ類が水面を覆い尽くしたのに対して, フナ添加田では繁茂が認められなかった。水中に溶存する硝酸塩等の窒素化合物は,フナ添加田で増加した。坪刈り法によって推定した米の収量は,フナ添加田がフナ無添加田を上回った。

本年度(2007)は,孵化後20日齢の若齢小型魚を放して,栽培実験を行った。底棲無脊椎動物全体の多様度指数に関して,フナ添加田と無添加田の間で違いは検出されなかったが,イトミミズ類の出現頻度はフナ添加田で相対的に低い値を示した。口の小さい小型個体にとって,ウキクサ類を食べながら除去することは難しいためか,フナ添加田と無添加田の間で,ウキクサ類の発生量に違いは認められなかった。水中に溶存する栄養塩類が,フナ添加田で増加した。米の収量は,フナ添加田が無添加田を上回ったものの,その差は昨年度よりも縮小されていた。フナ類の排泄物が施肥効果をもたらし,米生産量の増大に貢献したと考えられた。また,ウキクサ類は栄養分を巡ってイネと競合関係にあり,魚による競合者の排除がイネの生育を助長する可能性が示唆された。フナ類の粗放的養成は,イネの生育に対して,プラスの効果を与えることが実証された。

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