| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-194

好き嫌いは種分化の始まり:寄主変更がもたらす集団分化のインパクト

*松林圭(北大・院理),Sih Kahono(LIPI),片倉晴雄(北大・院理)

近年、生態的な適応が生殖隔離を引き起こす“生態的種分化”に興味が集まっている。生態的種分化とは、異なった分岐選択を受けた集団間での形質の分化が生殖隔離を引き起して生じる種分化の総称であり、これが実際に様々な生物において主要な種分化機構となっていることが分かってきた。しかし、どのような形質が最初に進化し、どれくらい種分化に貢献するのかについてはほとんど知られていない。

植物食のテントウムシHenosepilachna diekeiでは、インドネシア西ジャワにおいて、キク科のMikania micranthaとシソ科のLeucas lavandulifoliaを利用する集団が同所的に生息している。それぞれの集団の個体は成虫も幼虫も、自らの成育している植物しか利用できないが、これらの集団間には食草の違い以外の隔離障壁が見つかっていない。このことから、これらの集団は食性の違いのみによって生殖的に隔離された”host race”であると推測される。

西ジャワBogor近郊において採集した複数のhost race集団は、いずれも採集された寄主植物へ非常に強い選好性を示し、相手方のraceの食草をほとんど受け入れなかった。mtDNA ND2遺伝子配列を用いてこれらの集団の集団遺伝学的解析を行った結果、2つのhost raceは明瞭な遺伝的分化を示し、race間での遺伝子流動はほとんど遮断されていた。この結果はH. diekeiのhost raceにおいて、寄主植物の違いが単独の隔離障壁として実際に野外で働いていることを示していると同時に、食植性昆虫では、寄主植物の違いが種分化を引き起こすのみならず、集団分化を促進し、ほとんど遺伝子流動のない種分化プロセスの最終段階まで到達させうることを明示している。

日本生態学会