| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-195

集団で行進するクロバネキノコバエ科幼虫armywormの分布域と種多様性

*須島充昭, 加藤俊英, 伊藤元己(東大・総合文化)

陸生ハエ目幼虫の中には,集団で行進する習性を持つものがいくつか知られており,特にクロバネキノコバエ科幼虫の行進は規模が大きく,軍隊の行進を連想させることからarmywormと呼ばれてきた(ただしガの幼虫にもarmywormと呼ばれるものがある).クロバネキノコバエ科幼虫のarmywormは,ヨーロッパでは19世紀から多数の出現記録があり,20世紀前半には北欧から熱帯へ至るまでの多くの地域で記録されている.2007年7月にはアメリカのアラスカ州で初めてarmywormが見つかり詳細に記録された(D. Sikes, M. Sutou, K. Heller: report作成中).また日本でも近年,行進する様子が数件写真撮影されているので紹介したい.

Armywormの種同定が試みられた例はまだ少ないが,ヨーロッパ産の多くはSciara militarisS. hemerobioidesであることが知られており,上記アラスカ産もS. militarisであった.他にS. congregataS. fraterna(アメリカ),S. lygropis(インドネシア),S. beebei(ベネズエラ)などが報告されている.日本産については現在調査中であるが,幼虫形態による種同定が困難であるため分子同定を試みており,アジア,ヨーロッパ,アメリカ産Sciara属のDNA barcodeを収集しているので経過を報告したい.

Armywormがなぜ行進するかについてはまだ研究されていないが,演者は高密度時の分散現象であるという仮説を立てている.Armywormは進路を舗装道路等で遮られるとそこで行進をやめ,道路上で集団で死亡することもあり,分散前の個体群の過密状態を回避している可能性がある.

日本生態学会