| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-196

チョウセンシマリスにおける冬眠様式の変異

*山下真理子(新潟大・農), 永瀬弘喜(新潟大・院自然研), 原範和(新潟大・院自然研), 近藤宣昭(三菱化学生命科学研究所),関島恒夫(新潟大・院自然研),

冬眠は、厳しい環境条件となる冬期を過ごす、一部の哺乳類でみられる極めて適応的な現象である。その調節メカニズムは未だ不明であるが、近年その調節因子として、冬眠動物であるチョウセンシマリスの血中内から冬眠特異的タンパク質(HP)が発見された。HPは年周期的な冬眠リズムに同調して血中内濃度が変化し、冬眠期に減少し、活動期に増加する特徴をもつ。また、冬眠をしない環境下においてもHPは同様のリズムが生じ、その変動は年周時計に司られた生体内調節と推察される。我々はHPの調節メカニズムを解明する過程で、シマリスの冬眠様式に年周期的に冬眠するタイプと一生涯冬眠をしない非冬眠タイプが種内変異として存在することを発見した。冬眠様式に関わる2つのハプロタイプの生活史や集団構造は今もって不明であり、今後、温暖化のような地球規模の環境変化に対し、それぞれのハプロタイプがどのような反応を示すのか生態学的・進化学的にも興味深い。

本研究では冬眠・非冬眠タイプの生態的、集団遺伝学的研究に展開する上で不可欠な両ハプロタイプの判別マーカーを開発するため、冬眠様式の多型を引き起こす調節経路の変異をHP濃度動態の比較をもとに明らかにすることを目的とした。供試された動物は4℃恒暗条件下で飼育され、赤外線照射温度計で毎日体温を測定し、冬眠行動の発現を確認するとともに、毎月採取された血漿を用いてWestern Blotting法によりHP濃度を定量した。その結果、冬眠タイプは年周期的なHP濃度の増減が見られるのに対し、非冬眠タイプは明確なHP濃度の変化が存在しないことが明らかとなり、冬眠制御にHPリズムの有無が深く関わっていることが示唆された。今後は、HP発現を調節する上位制御機構の変異を解明する必要がある。

日本生態学会