| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-281

モンゴル草原における放牧圧による植物群落の変化

*柿沼薫(東大院・農), 高槻成紀(麻布大・獣医)

過放牧は放牧地の持続的利用にとって大きな問題となっている。モンゴルで過放牧が是正されない背景には、過剰な放牧によっておこる植物の反応に対し、牧民が危機的状況と認識していないことがあげられる。現状を改善するためには放牧によっておこる植物の反応と共に、牧民の草原に対する意識も明らかにする必要がある。本研究ではモンゴル北部の草原において、放牧圧の違いに応じた群落の変化を調べ、それぞれの放牧圧で牧民が草原をどのように評価するかを調べた。

放牧圧に応じた群落変化を調べるために植生調査を行った。放牧圧はゲルの位置と家畜頭数に基づき、軽牧地、中牧地、重牧地の3段階に分けた。それぞれに1m×1mのコドラートを設置し、コドラート内の出現種数、被度、草丈、バイオマスを計測した。その結果、重牧地で植物種数、バイオマスが減少しており、特にGaliumなど双子葉類の減少が目立った。Carexは全調査区で共通して多くみられ、特に重牧地で被度が高かった。放牧圧が強くなるにつれ種組成が大きく入れ替わるというより、軽牧地で被度の小さい種が重牧地で出現しなくなるという傾向がみられた。

これらの草原に対する牧民の評価を知るため、聞き取りを行った。軽牧地、中牧地、重牧地へ牧民を連れて行き草原の評価とその理由を聞いた。その結果、牧民は重牧地で被度が高くなったCarexFestucaなどを「細い草」と呼び良い評価を与え、重牧地で出現しなくなる双子葉類を「太い草」と呼び良くも悪くもないと評価していた。牧民の植物に対する意識はさらに調べる予定であるが、植物種数やバイオマスが減少した状態の重牧地を否定的にとらえていない可能性があり、そのことが放牧圧の集中を加速させている可能性が示唆された。

日本生態学会