| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-295

対照的な二地域におけるエゾシカ生息地の質と量による評価

*山本悠子(農工大・農),宮木雅美(道環研),高橋裕史(森林総研),小平真佐夫(知床財団),岡田秀明(知床財団),山中正実(知床財団),梶光一(農工大・農)

ニホンジカによる生態系への影響、農林業被害は全国的に報告されている。特に北海道では、エゾシカの個体数が増加し、希少植物や天然林などの生態系への影響、農林業被害や交通事故増加等、大きな社会問題を引き起こしている。生態系への影響として、知床岬・洞爺湖中島では、これまでに20年以上におよぶ長期モニタリングによって、エゾシカ個体群の爆発的増加と群の崩壊、それに伴う森林植生の変化が追跡されている。この二地域では、二度にわたる爆発的増加と崩壊が起こり、高密度化により植生へ強い影響を与えたという共通点をもつが、一方で生息地の環境(気象、森林、餌資源)は大きく異なっている。また、二度目の崩壊後である現在の両個体群を比較すると、洞爺湖中島個体群の方が体サイズが小さく、生息密度も低く、それぞれの生息地が支えている個体群の性質も大きく異なっている。

そこで本研究では、二地域の環境収容力に影響する要因の一つとして考えられる“夏期餌資源の質と量”について調べ、対照的な二地域のエゾシカ個体群と夏期(5-10月)の餌資源との関係を明らかにすることを目的とした。知床岬の餌資源は草本であり、洞爺湖中島の餌資源は落葉と草本である。月単位の餌資源の量を調べるため、移動ケージ法による草本の刈り取りとリタートラップ法による落葉の回収を行い、生産量と採食量を推定した。また、月単位の餌資源の質を調べるため、草本と落葉の粗蛋白質含量、繊維含量、熱量の分析を行った。餌資源量は二地域とも十分にあったが、洞爺湖中島では草本の生産量が少なく、かつほぼ食べ尽くされており、8月以降は落葉が主な餌資源となっていた。夏期の餌資源量と餌資源の栄養的な質を結びつけて、対照的な二地域のエゾシカ個体群を支えている生息地の評価を行う。

日本生態学会