| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S04-1

生態系の繋がりの把握と土地利用計画への応用

夏原由博(京都大学)

生物多様性の保全は,健全な生態系プロセスの維持まで含めなければならないが,具体的に評価可能な指標としては,生物多様性の構成要素である「種」を減らさないことであろう。その意味での生物多様性保全計画における3つの課題は,(1) ホットスポットの発見あるいは保全施策のギャップの発見,(2) ネットワークの構築,(3) 将来予測,シナリオ分析である。そして,これらの作業を助け,関係者間での合意を得るために役立つのが地図化である。ヨーロッパでは,伝統的にエコトープやバイオトープを分類する手法が採用され,EUのNatura2000などが知られる。一方,アメリカ合衆国では,GAP分析データベースに見るように種生育適地図を主とした方法を採用してきた。重要なエリアの検出のための地図化手法には,生物種の分布データに基づく方法と種データと環境情報を関連付ける方法があり,Margules & Sarkar (2007)は,(1) 生物分布図,(2) 群集データのクラスタリング,(3) 群集立地適地図,(4) 種生育適地図,(5) フィジオトープ地図,(6) 直感的地図に分類している。ホットスポットは分布図にもとづく,その場所の“かけがえのなさ”と,土地規制や利便性にもとづく場所の“もろさ”によって評価し,補完性と持続性が得られるように選択される。種の実際の分布でなく,生育適地やエコトープなどに基づく場合には希少種の分布を過大に推定し,必要な保護区を見落とす危険がある。また,フィジオトープやアンブレラ種を代理指標として用いる有効性にも消極的なデータが多い。ネットワークについては,コアとしての保護区を回廊等で結合するだけでなく,持続的利用エリアを広く設ける考え方が重視されつつある。将来予測には生育適地モデルが不可欠であるが,スケールの効果などに注意を払う必要がある。

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