| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S07-1

南硫黄島調査の意義

藤田卓*(九大・理)

世界中の熱帯・亜熱帯地域の海洋島は、「生物進化の実験場」として有名である一方で、「外来生物侵入の実験場」と言い換えることができるほど、人為かく乱によって固有の生態系が失われてきた。小笠原諸島の南部に位置する南硫黄島は、周囲を数十mの崖と、平均斜度45度の急斜面に囲まれているため、有史以来人類の永住記録がなく原生の自然が残る貴重な島である。

1982年に環境庁が実施した総合調査の報告は、南硫黄島の自然環境の詳細を知る上でほとんど唯一の重要な記録である。これによれば、維管束植物118種、昆虫類152種、鳥類21種、爬虫類2種、哺乳類1種などが確認され、それらの中には南硫黄島固有種も含まれ、しかもネズミ類などの有害な外来生物が侵入していないことなどが明らかにされた。このような手つかずの島が今日も残されているとすれば、海洋島における生物多様性・生態系の成立や維持、生物進化の過程などを実際に調べることができる極めて貴重な島と言える。しかしながら2004年の座礁事故やそれ以外に報じられていない事故や無断の違法上陸が無いとは言えず、南硫黄島の現状を明らかにする必要性が高まっていた。そこで、本島の自然環境の現状を明らかにするため、2007年6月に南硫黄島自然環境調査を東京都環境局と首都大学東京が合同で実施した。

一方で、本調査の成果の1つは、上陸調査に伴う外来生物の侵入を防ぐために、調査者が行うべき点が明らかになったことである。この成果は、本調査において徹底した外来種対策(検疫ルームの設置、荷物の冷凍・乾燥処理、排泄物の持ち帰り等)を行った結果、得られたものである。

これらの結果は、東京都及び首都大学東京により行われた総合調査の成果の一部である。

日本生態学会