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シンポジウム S09-1

コウノトリの再導入 ー現状と課題ー

池田啓(兵庫県立コウノトリの郷公園)

コウノトリ(Ciconia boyciana)は極東地域に生息する大型の渡り鳥である。ただ、日本、韓国においてはかつて繁殖個体群が存在していた。国内唯一であった兵庫県但馬地域の個体群は、生息数の減少が見られたことから、1950年代後半から生息域内での保全活動が行われ、1960年代には生息域内保全(飼育下繁殖)へと移行した。

極東ロシアからの個体導入もあって飼育下での個体数は順調に増加し、兵庫県、豊岡市などの関係機関は2003年に『コウノトリ野生復帰推進計画』をまとめ、再導入に向けた事業に着手した。具体的には、行動学・生態学にもとづいた放鳥技術の確立と放鳥後のモニタリング、コウノトリが定着できる環境再生の推進、そしてこれらの実行を可能とする住民参加のシステム作りである。

2005年から試験的に再導入が始まり、この3年間で21羽が放鳥され、4羽を回収、1羽が死亡、3羽のヒナが加わって、計19羽が野生下で生存している。生息環境の再生では、水田魚道を設置するなど生態系に配慮した構造改善事業、減・無農薬、及び有機栽培に取り組む「コウノトリ育む農法」、河川敷の湿地化、河川横断工の改修などが取り組まれている。このようなさまざまな主体の活動が連携できるよう、「コウノトリ野生復帰推進協議会」が設置されている。

コウノトリの再導入計画が評価されるとしたら、科学的な知見に基づいて、保全の現場において地域での合意形成や協働が実践的に行われてきたことであろう。それは、野生復帰の目標が稀少な生物の保全に留まらず、持続可能な社会づくりの実現に置かれたことによると考える。

今後は、これまでの試験的な放鳥を再評価し、生物的側面及び社会的側面での課題を見いだし、その対策を立てた上で本格的な再導入に進む予定である。

日本生態学会