| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S09-4

ヤンバルクイナの現状

尾崎清明((財)山階鳥類研究所)

ヤンバルクイナは1981年に沖縄島北部で発見・記載された日本で最も新しい鳥種である。当初の分布域は国頭村・大宜味村・東村にまたがるいわゆる「やんばる地域」であった。ところが発見から10年ほど経って、分布域の南部で生息が確認されなくなり、その分布の南限が次第に北へ押しやられていることが判明した。このころやんばる地域に分布を拡大してきたのは、1910年に南部の那覇などで放獣されたジャワマングースである。ジャワマングースの分布域拡大とヤンバルクイナの分布域減少は同調しており、両種の分布域はほとんど重複していない。その結果現在のヤンバルクイナの分布は、国頭村のみにほぼ限定されている。

ジャワマングースは地上の小動物や卵などを好んで捕食し、ヤンバルクイナは地上営巣性であるため、ヒナや卵が食害を受ける可能性が高い。また、両種の食性はかなり重複しているものと思われる。こうしたジャワマングースの直接および間接の影響を受けて、ヤンバルクイナの分布域が減少しているものと推測される。

一方環境省と沖縄県はジャワマングースなどの防除事業を実施しており、2006年度末までに8千頭以上を捕獲しているが、一旦分布が広がった地域からの根絶には至っていない。そこで環境省などが2004年に策定したヤンバルクイナ保護増殖事業計画では、生息環境の維持管理として外来種の排除とともに、飼育下における繁殖と個体の再導入を目指している。すでに2007年度より試験的な飼育が開始されており、今後施設の整備などが本格化する予定である。

同じく島嶼に生息し絶滅の危機にあるクイナの仲間では、グアムクイナやロードハウクイナなどで飼育下繁殖や再導入計画が進められており、種の絶滅はくいとめてはいるものの、問題点も残っている。これらの先行事例を参照しながら、ヤンバルクイナに必要な保護策について論じたい。

日本生態学会