| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S14-2

チシマザサとチュウゴクザサのクローン構造

松尾歩(東北大・農)ら

ササは地下茎により栄養成長を繰り返すクローナル植物であり、長寿命で大規模な一斉開花・枯死を行う稀な生活史特性を持つ。このようなササの生活史を明らかにすることは、クローナル植物の生存戦略を解明することに繋がるだけでなく、ササが繁茂する森林の長期的な植生動態を考える上でも重要である。

本研究では、1)1995年に一斉開花したチシマザサの更新個体群、2)その時にパッチ状に枯れ残った個体群、3)2007年に一斉開花したチュウゴクザサ個体群を対象として、DNA分析による個体識別を行うとともに(計6131稈)、土壌剥ぎ取りによる地下構造の直接観察を行い(計651稈)、3つのササ個体群のクローン構造を明らかにした。これらの結果から、ササ個体群のクローン構造形成メカニズムについて検討した。

調査の結果、更新後11年目のチシマザサ個体群では、閉鎖林冠下には地下茎を持たない小さなクローンが散在し、ギャップには密生した群落の中で地下茎を持つ成長の旺盛な少数のクローンが優占しつつあった。一方、枯れ残った個体群では単一のクローンが大面積を優占していた。チュウゴクザサの開花直前の個体群では、単軸型地下茎のみを持つクローンが多数混在していた。

これらのことから、チシマザサの更新過程においては、光条件の良い場所で成長の旺盛なクローンが連軸型地下茎で株を形成しながら単軸型地下茎を走出させ、他クローンと競争しながら分布範囲を拡大し、いずれは少数の大クローンが林床を被うように優占する可能性が考えられた。また、チシマザサが2タイプの地下茎を持つのに対し、チュウゴクザサは株を形成しない単軸型地下茎で主に成長するため、強い間引きが起きずに多数クローンが生残・混在する構造が形成されたと考えられた。

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