| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


シンポジウム S14-7

タケササ類の開花・更新時を対象とした分子生態学的解析

陶山佳久(東北大・農)

長寿命・一回繁殖性で一斉開花するタケササ類の開花・更新時は、個体群の劇的な変化が見られる興味深い調査対象の一つであるといえる。また、タケササ類でしばしば見られる同一コホート由来の単純一斉個体群や、大面積を占める少数の巨大ジェネットをうまく利用すると、クローナル植物の繁殖生態学的研究における単純なモデル系として扱うことができると考えられ、タケササ類を研究対象とする利点の一つとしてあげることができる。

私たちの研究グループでは、10年ほど前からタケササ類の分子生態学的研究を開始したが、ある個体群の一斉開花・更新をあらかじめ認識できる機会に出会うことは難しく、このステージを対象とした調査の実現を阻んできた。しかし、2006年にインド・ミゾラム州において48年周期で大面積一斉開花したタケ類(メロカンナ:Melocanna baccifera)の調査に前もって着手する機会に恵まれ、さらに2007年に京都でチュウゴクザサが一斉開花する直前にも調査を開始することができた。これら2箇所を対象とした分子生態学的解析として、1)親稈のジェネット識別による開花直前個体群のジェネット構造の解明、2)種子・実生の親子解析による花粉・種子散布パターンと繁殖成功の解析、3)親・種子・実生・生残実生ステージでの遺伝的多様性比較などを実施し、タケササ類の開花・更新時に関する知見を蓄積しつつある。メロカンナを対象とした調査では、1183の親稈、339個の種子、3739稈の実生という大量のサンプルについてDNA分析を行い、開花・更新時の分子生態学的解析を進めている。本講演ではこれらの解析結果を紹介するとともに、タケササ類の分子生態学的研究について、今後の展望を議論する。

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