| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T12-2

硝酸の窒素・酸素同位体比同時測定による栄養塩動態解析

大手信人(東大・農学生命科学)

硝酸イオン(NO3-)は陸域の生態系では,一次生産者にとって最も重要な栄養塩を形成する.また,水溶性が高く水文過程に沿って流下しやすいので,過剰な負荷によって水系は富栄養化する.この意味で生態系の栄養状態を規定する最も重要な溶存物質の一つである.生物圏では有機物が分解・無機化され,硝化されることによって生成され,大気中ではNOxの酸化によって生じる.陸域生態系ではこれらのことなる起源を持つNO3-が存在し,水とともに移動している.これらの動態を,安定同位体比を用いてトレースすることによって得られる情報は様々な局面で利用価値がある.NO3-のδ15Nは,屎尿などに含まれる有機物が起源の場合,そのほかの起源を持つものに比べて大きな値をとることが多く,これを区別することができる.一方,δ18Oは大気降下物中のNO3-で他の起源のものより著しく高く,これを区別することができる.また,NO3-が脱窒を受け消費されて行く場合,残余のNO3-のδ15Nとδ18Oは,ともにある一定の比をもって増大していくことが知られている.つまり,NO3-の窒素・酸素の安定同位体比は,そのNO3-の起源がどのようなプロセスであるか,どのような形態変化のプロセスを受けているかに関する情報をもっている.近年,窒素と酸素の安定同位対比を微量で同時に測定することができる新しい方法が開発され,河川を取り巻く陸域生態系の窒素循環に関する研究に応用され始めている.本発表では,この新しいNO3-の安定同位体比測定手法の方法論を解説し,琵琶湖集水域における種々の河川流域の総観的調査への適用結果を報告する.琵琶湖を取り囲む30余りの河川のNO3-の安定同位体比は,各流域の土地利用形態を反映し,人為的な窒素負荷起源のNO3-をトレースできることがわかった.

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