| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T13-1

ギルド内捕食系研究の現状と課題

瀧本 岳(東邦大・理)

「雑食」と「ギルド内捕食」は何が違うのだろうか?雑食という言葉は20世紀初めにはすでに使われている。他方、ギルド内捕食という言葉が生まれたのは比較的最近(1980年代後半)のことである。両者とも二つ以上の栄養段階を捕食することを指す。ただしギルド内捕食は、同じ栄養段階ギルドに属する他種への捕食という点を強調することが多い。これまで雑食に関しては、生物群集の動態(安定性など)に与える影響を議論されることが多かった。これに対してギルド内捕食は、生物群集の構造に与える影響について議論されることが多い。特に、ギルド内捕食系研究の重要な成果の一つは、ギルド内捕食が群集構造に代替安定状態(alternative stable state)をもたらす点を指摘したことである。

ギルド内捕食が代替安定状態を引き起こすための理論的な必要条件は、先行研究から明らかである。そこで本発表では、ギルド内捕食が代替安定状態を引き起こすための十分条件を明らかにする。ギルド内捕食系の代替安定状態は、ギルド内捕食者(上位捕食者)が資源競争と捕食の両方を通じて、ギルド内被食者(中間捕食者)の侵入を阻止することによって生じる。得られた必要十分条件は、この資源競争と捕食の強さが代替安定状態の生起を決めることを示している。また、生息環境の生産性の傾度に沿って現れる、代替安定状態の興味深いパターンを報告する。加えて本発表では、雑食やギルド内捕食のこれまでの研究を概観し、今後の研究の方向性を探る。特に、雑食やギルド内捕食の適応的意義と、その群集動態や群集構造への影響との関係について、本集会の他の話者のトピックへの橋渡しになるような議論を広げたい。

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