| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T13-5

ギルド内捕食系の安定性と個体群動態

難波利幸(阪府大・理)

資源を共有する種間で一方が他方を食うギルド内捕食は,最も簡単な雑食系の一つである。ギルド内捕食系の存続については,ギルド内被食者の資源利用効率がギルド内捕食より高いことが必要で,系の生産性とともに被食者優占から2種共存を経て捕食者優占へと変化することが分かっている。

さらに,最近の理論研究により,資源から捕食者への直接経路と被食者を経る間接経路の相対的エネルギー効率が,多重安定状態の存在やカオスなどの複雑な挙動の有無に大きな影響を及ぼすことが分かってきた。

本講演では,3種Lotka-Volterraギルド内捕食系と,それに,資源または被食者または捕食者を食う第4の種を加えたモデルを解析した結果を報告する。3種系では,直接経路の効率が良い時に,資源と被食者,資源と捕食者の2つの定常状態がともに安定になり,直接経路の効率が極端に悪い時,カオスなどの複雑な挙動が起こる。

この系がカオスの状態にあるときに,第4の種を加える。資源を食う第2の消費者が入る時,転換効率が大きくなると4種共存が可能になり安定となるが,さらに効率がよくなるとギルド内被食者と捕食者が絶滅する。一方,ギルド内被食者を食う第2の捕食者が入る時,この捕食者の存続が可能になるとともに,系はカオスからリミットサイクル,さらには安定定常状態へと移行する。また,ギルド内捕食者を食う上位の捕食者が入ると,カオス的な振動はなかなか治まらず,転換効率が相当に大きくならない限り安定な定常状態での共存は実現しない。

以上の結果は,上位捕食者は資源からギルド内捕食者への直接経路と間接経路の相対的効率を変えないために系の振動状態を変えないが,ギルド内被食者を食う第2の捕食者は間接経路の効率を下げるために系を安定化すると解釈することができる。講演では,ギルド内捕食が,より複雑な生物群集の構造や安定性に及ぼす影響について知られていることも紹介する。

日本生態学会