| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


企画集会 T19-4

落葉広葉樹における通水性と葉のフェノロジーの関係

高橋さやか(京大・農)

温帯落葉広葉樹には環孔材および散孔材樹種がある。通水性の違いから、これらの年輪内における道管径の大きさと分布の違いは、樹種の成長様式と密接に結びついていると考えられる。当年の水輸送に関与する道管は、環孔材の孔圏部では当年輪のみ、散孔材では数年輪であると報告されている。それではなぜ環孔材樹種は1年で閉塞してしまう孔圏部の大径道管を形成するのであろうか。Hagen-Poiseuilleの法則より毛細道管の通水性は半径(r)の4乗に比例することから、環孔材の孔圏部の大径道管は、環孔材の孔圏外部および散孔材の道管よりも通水性が格段に良いと考えられる。本研究では、通水性の指標となるr4の年輪内変化と葉のフェノロジーとの関係を環孔材5樹種と散孔材5樹種で比較した。その結果、多くの環孔材樹種では葉の成熟時に当年の通水に関与する道管がほぼ完成する一方、散孔材樹種では葉の成熟時に当年の道管を形成し始める傾向がみられた。さらに、環孔材樹種におけるr4の年輪内変化と開葉型との関係を調べた。その結果、一斉型の樹種では通水性が当年輪全体の約90%以上まで急激に増加するが、一斉+順次型の樹種では通水性が最初急激に増加した後、緩やかに増加する傾向がみられた。これらの結果から、環孔材樹種では1)光合成を充分に行うことができる時期(葉の成熟時期)までに水輸送に寄与する大部分の道管を形成していること、2)道管配列と開葉型に密接な関係があること、が示唆される。従って環孔材樹種では、光合成に適した時期に、1年で道管閉塞をおこすが大量の水輸送を行う道管を完成させるという生活戦略をとると考えられる。一方、散孔材樹種は光合成に適した時期に合わせて樹幹の道管を完成させはしないが、道管閉塞し難い小径の道管を形成し、数年輪水輸送が可能であることで、安定した水輸送を可能とする生活戦略をとると考えられる。

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