| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


大島賞受賞記念講演 1

干潟のカニ類に見られる代替交尾行動−そのコストと利益

古賀庸憲(和歌山大・教育・生物)

代替戦術・戦略は行動の進化を理解する上で重要な現象の一つである。干潟のカニ類ではオスが派手な求愛やパフォーマンスでメスをオスの巣穴に招き入れる(又は連れ込む)「地下交尾」と、派手な求愛なしに干潟表面で交尾する「地表交尾」が見られ、種によってどちらか片方あるいは両方を行う(代替交尾行動)かがほぼ決まっている。両方を行う種では、同一個体が条件に依存して異なる交尾を行うので代替「戦術」である。

演者らは、異なる捕食リスクの元で代替交尾行動の割合が変化することを,シオマネキの1種 Uca beebei で実証した。具体的には、捕食者の多い条件下で、派手な求愛を必要とし捕食のリスクが高いと期待される地下交尾の割合が、リスクが低いと期待される地表交尾よりも有意に低下することを野外実験により示した。更に、同じく U. beebei で、求愛の際に重要なオスの二次的性形質が捕食のリスクに曝されることを観察と実験により示唆した。具体的には、オスがメスよりも頻繁に捕食されていることを自然条件下で確かめ、その原因がオスのみが持つ巨大な鉗脚や明るい体色にあることを実験で示唆した。条件の変化により代替交尾行動の割合が変化するという研究は一部の魚類や等脚類を除くと依然として稀であり、また、代替交尾を行う種でオスの二次的性形質が高い捕食圧にさらされているという実証研究も少ない。これらは、種間相互作用(食う・食われるの関係)が配偶行動の進化に影響する可能性を示した実証研究であり、様々な分類群の代替交尾でも同様の傾向を示すことが期待される。

上記の研究に先立ちコメツキガニの2つの交尾行動が、高コスト・高利益タイプ(地下交尾)と低コスト・低利益タイプ(地表交尾)に分けられ、それらが生活史に依存して使い分けられていることを示した。また、外から見ることのできない閉じた巣穴内で交尾と受精が行われていることを不妊化実験により初めて確かめた。繁殖成功を野外実験により測定したところ、地下交尾オスは地表交尾オスと比べ約4倍高かった。派手な求愛やパフォーマンスを伴う交尾行動の利益がもう一つの交尾行動の利益よりも大きいことの実証は、上記 Uca beebei における研究内容の基盤となるものである。

これらの内容を今後の課題と合わせて講演で紹介したい。

左:ハクセンシオマネキ(雄)、中:同(メス)、右:コメツキガニ(雄)

日本生態学会