| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-04

遺伝的多様性に配慮した希少植物の保全―岡山のサクラソウを例に―

*下野綾子(国環研),本城正憲(東北農業研究センター),上野真義,津村義彦(森林総研),池田博(東大博物館)

岡山県では希少野生動植物保護条例にのっとり、地域集団の遺伝的構成を大きく変えない希少種の保全施策が検討されている.本研究では条例の候補種であるサクラソウを対象に、現存集団の遺伝的多様性を把握し、保全の単位とすべき遺伝的なまとまりについて検討した.12集団の開花個体数を調査したところ、9集団はそれぞれ10ジェネット(遺伝的に異なる個体)以下によって構成されていた.3集団についても、それぞれ数十ジェネットからなると見積もられ、岡山県のサクラソウは小さい集団が残存している状態であった.マイクロサテライトマーカー10座の遺伝子型を決定し、任意交配集団を構成するように個体をグループ分けして、潜在的グループを推定したところ3 グループに分けられた.比較的集団サイズの大きい3集団は各グループに1つずつ入った.これらの3集団間の遺伝的分化の指標値であるFSTは0.1- 0.15程度であった.さらに葉緑体DNAの5つの領域の塩基配列を決定したところ、5つのハプロタイプが見出された.1集団を除き、上記のグループ内の集団のハプロタイプ組成は似ており、マイクロサテライトマーカーによるグループ分けを裏付ける結果であった.なお地理的に離れている1集団のみ独自の変異を有していた.サクラソウの既往研究によると、保全を考える単位を「頻繁に遺伝的に交流していた個体の分布範囲」とし、遺伝的交流の基準として集団間FST を0.05以下、共通する葉緑体ハプロタイプが少なくとも一つ存在することとしている.その基準と本研究の結果から岡山のサクラソウ集団は、4つの遺伝的なまとまりに分けられた.


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