| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) G1-02

安定同位体から見た熱帯雨林の食物網の構造

兵藤不二夫(SLU),松本崇(京大・人間環境),竹松葉子(山口大・農),鴨井環(愛媛大・農),福田大介(京大・生態研),中川弥智子(名大・農),市岡孝朗(京大・人間環境)

窒素・炭素安定同位体は近年食物網の研究に用いられている。この手法は、実験室や水域生態系の野外調査結果に基づき、餌に比べ動物の窒素同位体比が上昇し、炭素同位体比が一定であることを仮定している。しかし、陸域生態系と水域生態系における栄養構造の違いがあるにもかかわらず、地上部地下部を含む陸域生態系食物網が安定同位体手法によって解析できるのかを検証した研究例は極めて乏しい。そこで、我々はマレーシア・ランビル国立公園において、多様な消費者(15目・28科)及び、林冠、林床の葉を採集し、消費者を腐食者、植食者、雑食者、捕食者、二次捕食者の4つの栄養グループに分け、その窒素・炭素同位体比を測定した。その結果、消費者の窒素同位体比は、栄養グループによって有意に異なり、栄養段階に沿って約3‰上昇していた。炭素同位体比も栄養グループごとに異なり、捕食者の炭素同位体比は植食者に比べて約2‰高いを持ち、腐食者と近い値を示した。このことは、捕食者が食物源として地下部食物網に依存していることを示している。また、森林における炭素同位体比の垂直分布を反映して林冠の葉は林床の葉に比べて炭素同位体比が高かった。これら葉と消費者の炭素同位体比の比較から、消費者の多くは林冠における生産に依存していることが示された。同じ栄養グループで比べると、脊椎動物は無脊椎動物に比べて高い窒素・炭素同位体比を示し、分析に用いた組織や生理プロセス、食性などの両者の間における違いを反映していると考えられた。野外における観察と摂食実験などの研究と合わせて、窒素・炭素安定同位体は栄養段階と地上部地下部の食物網のつながりという二つの観点で陸上生態系の食物網構造を理解する有効な手法であると考えられた。


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