| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) H1-01

シイ林における天然林と社寺林および都市公園の現状

小林悟志(新領域融合研究セ)

照葉樹林の主要な構成樹種であるシイは、海岸部にスダジイ、内陸部にはツブラジイが分布していることが知られている。また、両種が混生している地域では雑種が存在し、標高の低い所ではツブラジイが多く、標高の高い所ではスダジイが多く、シイの分布域の最も標高の高いところでは、スダジイのみが優占している。しかし、スダジイのみの分布と考えられる地域に雑種個体が存在し、ツブラジイの分布域と考えられる地域の社寺林には、スダジイが分布していることがある。

本研究では、九州南端の天然林と、植栽由来の可能性がある社寺林および公園林を調査し、スダジイとツブラジイおよび雑種を判別して、それぞれのシイ林の構成種を明らかにすることを目的とした。

天然林については、大隅半島の稲尾岳周辺のシイ林(574個体)を調査し、海岸部から稲尾岳山頂にかけては一部雑種が存在したが、そのほとんどがスダジイであった。一方、山頂から内陸部にかけて標高が低くなると、雑種が存在し、スダジイの個体数の割合は低くなり、ツブラジイの個体数が増加して渓流沿いでは、ほとんどがツブラジイであった。

三河地方の財貨寺周辺のシイ林では、周辺の二次林がツブラジイで占められているが、社寺林にはスダジイと雑種が分布していた。また、その地域の最も標高の高い所に分布していたのはツブラジイ個体群であった。

都市公園の北の丸公園では、残存林も残っているが、そのほとんどは1963年頃に植栽されたシイ個体で構成されており、453個体のシイが存在し、雑種が126個体(27.8%)でツブラジイは存在していない。これは、天然林で両種が混生する稲尾岳周辺の雑種の割合(14.3%)よりも高い。また、財貨寺の雑種の割合は33.8%で、両種が混生する天然林と比較すると、社寺林や公園林などの植栽由来のシイ林は、雑種個体が多い傾向にあることが示唆された。


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