| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-06

マレーシア熱帯雨林における樹木の葉の気孔形態と林内環境の関係

*市栄智明,高橋成美(高知大・農),田中憲蔵(森林総研)

樹木の光合成や呼吸、蒸散活動は全て気孔を介して行われる。一年中高温多雨な環境の下、複雑な階層構造を持つ熱帯雨林に生育する樹木は、林冠から林床にいたる様々な林内環境に対して、どのように気孔形態や密度を適応させて対応しているだろうか。この研究では、熱帯雨林樹木の気孔形態や密度と生態的・系統的な特性との関係を明らかにすることを目的とした。

調査はマレーシアサラワク州のランビル国立公園で行った。同公園内に設置された林冠クレーンシステムやツリータワー・ウォークウェーシステムを用いて、林冠構成種からギャップ種、林床の低木種まで33科74属133種の葉を採取した。採取した葉は、気孔形態や密度、葉厚、葉の硬さ、葉面積、葉裏に毛や突起物を持つ樹種についてはその形状及び密度を測定した。属や科といった系統関係に加え、成熟時の樹高によって5つの生活形(林床+低木種・亜高木種・林冠構成種・巨大高木種・ギャップ構成種)に分類して、気孔形態や葉の特性との関係性を解析した。林冠構成種・巨大高木種については、最大光合成速度や水利用効率といった生理特性についても調査を行った。

その結果、熱帯雨林の樹木の気孔形態は、生活形や系統に関係なく、大部分が隆起型(39.1%)か平坦型(40.6%)を持つことがわかった。また、調査した熱帯樹木の、実に60%以上の樹種が気孔の周辺に毛や突起物(トリコーム)を持つことがわかった。気孔密度やトリコームの密度は、下層・中間層種で低く、ギャップや林冠・巨大高木層の樹種で高くなるなど、林内環境と密接な関係を持っていた。さらに、同じ林冠構成種でも、トリコームの密度が高い樹種は、高い水利用効率を示した。つまり、熱帯雨林の樹木は、気孔やトリコームの形態、密度を変化させることでそれぞれの環境に適応していることが考えられた。


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