| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) M1-04

樹木の資源配分と花粉制限が結実動態の二型を促進する

*秋田鉄也,松田裕之(横浜国立大学,環情情報)

本発表では、ブナ科植物に代表される雌雄異花同株の多年生植物を対象に、その開花・結実動態の進化的側面について性比理論をもとに考察した。具体的には、進化的に安定な性比の開花・結実動態を解析的および数値的に調べた。

古典的な性比理論において、性比とは雄機能と雌機能への資源配分比として用いられてきた。風媒植物を対象とする場合「雄機能投資=雄花投資」、「雌機能投資=雌花・結実投資」と単純化できる。しかし、結実投資量が受粉に成功した雌花数に比例する場合、繁殖投資資源が年変動する状況下では性比は毎年変化し、その進化動態の扱いには困難を伴う。そこで、雄花と雌花との投資比を性比と定義することで、一定の性比のもとでも結実年変動の表現を可能にし、性比の進化とその結果としての結実動態とを結びつけた。

各樹木個体は毎年資源を蓄積し、蓄積量がある閾値を超えた年に、開花・結実へと投資するとした(Satake & Iwasa 2000)。この資源配分メカニズムのもとでは、性比の変化に応じて集団の結実動態は様々な様相をみせる。主要な仮定は以下のとおりである、1)送受粉過程は集団内の無作為交配だが花粉制限がある、2)個体が枯死した場合は、繁殖貢献度が高い個体の子孫ほど替わりに侵入しやすいとし、集団中の個体数は一定を保つ、3)更新の際に突然変異によって性比の値が変化する。

解析の結果、広いパラメータ領域において性比の二型が集団中に生じた。一斉不作が起きる性比は変異個体の侵入を防止できず、最終的には強く雄花生産に偏る変動のない集団と、複雑な年変動をする集団とに分かれた。後者の集団は、花粉制限の強さに応じて様々な個体間同調を示した。この結果は、豊凶には二型を伴う必要性を示唆する。コナラ属では、豊作年においても資源の大部分を雄花生産に投資する個体が集団中に存在することが知られ、本発表の結果を支持すると考えられる。


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