| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) M1-10

被食者の表現型変化が個体群動態に及ぼす影響

*山道真人(総研大・生命共生体進化学), 吉田丈人(東大・総合文化), 佐々木顕(総研大・生命共生体進化学)

捕食・被食というプロセスが個体群動態へもたらす影響を理解することは生態学の主要な課題の一つである。近年、行動・形態といった表現型の変化が捕食者・被食者系の個体群動態に与える影響が注目されている。その中でも特に、被食者の対捕食者戦略としての表現型変化が個体群動態に与える影響に注目して研究を行った。

数理モデルでは、Abrams & Matsuda (1997)により、被食者の表現型(防御形質)に2型がある場合、その頻度が変化することによって振動の周期が変化することが調べられた。その後、Yoshida et al. (2003)において、ケモスタット中のワムシ・クロレラ系において同様の現象が実際に起きていることが確かめられた。このように集団中の複数の遺伝子型の頻度が変化する現象は「急速な進化」と呼ばれている。一方で、個体が周囲の環境変化に合わせて表現型を変化させる「表現型可塑性」も個体群動態に影響を与え、振動を安定化させることが知られている(Vos et al. 2004;Verschoor et al. 2004)。

しかし、一般に周囲の環境に応じて表現型を変化させる可塑性にはコストが伴うため、可塑性が進化するためにはそれに見合う利益が必要であると考えられる。それでは、捕食者の存在下において、固定した形質を持つ遺伝子型と誘導防御を行う遺伝子型が競争した場合、どのような結果になるのだろうか。このとき、可塑性の感度によっては必ずしも可塑性のある遺伝子型が勝つ訳ではなく、むしろ絶滅する場合もあることがわかっている。

では、どのような感度の可塑性が適応的であると言えるのか。さまざまな感度の可塑性を持つ遺伝子型の侵入可能性と、それらの可塑性のコストを考慮した場合についての数理モデルを構築し、解析した結果を発表する。


日本生態学会