| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) M2-03

ヤマトシロアリ属初期コロニーでのカスト生産〜生殖虫除去の影響〜

神田紘美(茨城大院・理工),北出理(茨城大・理)

ヤマトシロアリ属のシロアリでは、卵は幼虫期を経て、「ニンフ」か「ワーカー」のどちらかのカストに分化する。初期コロニーでは、通常有翅虫の雌雄がペアとなり交配を行う。このような小さなコロニーではニンフは存在せず、生まれた子はワーカーへと分化する。

ヤマトシロアリ属のカンモンシロアリReticulitermes kanmonensis、ヤマトシロアリR.speratusは、親生殖虫のカストが「ワーカー由来」か「ニンフ由来」かによって、子のカスト比に違いが出る可能性がある(Hayashi et al.2007、Kitade et al.未発表)。本研究ではこの二種を使用し、初期コロニーで有翅虫が死亡した状況を再現するため、「ニンフ由来」の雌雄有翅虫の片方または両方の除去を行った。そして、そのコロニーにおいて(1)ワーカーから「ワーカー由来」の生殖虫が出現するか、(2)親生殖虫の違いにより子のカストや性比が異なるかを調べた。

8ヶ月の実験期間中、ワーカー型生殖虫は二種とも雄より雌のほうが多く出現した。ヤマトシロアリでは、雄有翅虫を除去しても雄ワーカー型生殖虫への分化が観察されないコロニーが多かった。また、子のカスト比や性比はカンモンシロアリとヤマトシロアリで大きく異なった。カンモンシロアリでは、全てのパターンで生まれてきた子はワーカーのみに分化した。性比は雌ワーカー:雄ワーカー=約1:1であった。ヤマトシロアリでは有翅虫の除去をきっかけとして子にニンフが出現した。ニンフの割合は除去パターンによって異なった。最も多くニンフが出現したのは雌雄有翅虫を除去したコロニーで、約半分の個体が雌ニンフに分化した。

二種間での結果の違いには、雌生殖虫による単為生殖の有無が関係する可能性がある。同時に、生殖虫がニンフ遺伝子型の幼虫をワーカーへ誘導する作用はカンモンシロアリでより強いと考えられる。


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