| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) M2-06

コウモリダンゴでの交尾に関するオスとメスの駆け引き

*杉田典正(立教大院・理),上田恵介(立教大・動物生態)

交尾に関するオスとメスの利害は一致しない。一般にオスの多回交尾は適応度を上昇させるが、メスの多回交尾は交尾時における様々なコストによって適応度を下げうる。オスによって繰り返される求愛行動がメスにとってコストとなるとき、これを軽減するために、メスは群れるなどして社会的に対応することが考えられる。

オガサワラオオコウモリは、オオコウモリ類の分布の北限に生息する種のひとつである。父島に生息しており、冬季には約150頭からなる集団ねぐらを形成する。集団ねぐらには、オスのみの群れ(オス群)と多数のメスと少数のオスが含まれる群れ(メス群)が存在する。メス群のオスはしばしばメスに対してしつこく交尾を試みる。集団ねぐら内では、個体同士が互いに密着してボール状になる行動(コウモリダンゴ)がみられる。コウモリダンゴは、保温の機能があると示唆されているが、メス群のコウモリダンゴはオス群に比べサイズが大きい。メスのより大きなコウモリダンゴはオスからのハラスメントに対する社会的な対応(薄めの効果)であるのかもしれない。

メス群のコウモリダンゴに注目して行動観察の結果、しばしば下位オスがメス群に侵入するが、メス群内の優位オスは彼らを排除し交尾を独占した。また、ある個体識別メスでは交尾が試みられない日の方が多かった。1日あたりのオスの交尾回数は限られるので、メスの密集化とともにメス1頭あたりの交尾回数は減少すると考えられた。交尾試みはメスのダンゴ参加率を減少させ、単独個体を増加させたので、オスによる交尾は休息の妨げと外気への暴露を介することによりメスのエネルギーコストの上昇を導くだろう。よって、メスは大きなダンゴを形成することで、薄めの効果によりオスのハラスメントを社会的に回避していると示唆された。


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