| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(口頭発表) N2-04

潮間帯カサガイPatelloidaにおける特異な生息地への機能的適応

*中井静子,若山典央,千葉聡(東北大院・生命科学)

カサガイはそのシンプルな形態と移動力に乏しい生活スタイルから、形態の多様性を生み出す要因を解明する上でとても良い研究材料とされている。従来、強い波浪の影響を受ける岩礁で進化したことから、カサガイの殻の形は波の流れに適応し平らな円錐形になったと考えられてきた。しかし近年、流体力学的な理論値と野外のカサガイの形態が一致しておらず、波の流れに加え他の要因(乾燥などの物理的ストレスや捕食、テリトリー争い)への適応もみられるとの新たな見解が示されつつある(Denny and Blanchette 2000)。

本研究では、形態分化が付着基質の形状に由来するとの仮説を立て、これを付着基質の条件のみが異なる2種のカサガイを用いて検証した。

2種のカサガイPatelloida.pygmaeaP.conulusは、潮間帯干潟に同所的に生息する近縁種である。pygmaeaは他の一般的なカサガイと同様、扁平な笠状の形をしておりカキ殻の上に付着している。conulusは著しく殻高の高い搭状の形をしており巻貝のウミニナ類の殻に付着している。付着基質の形状以外の物理的環境が同じである2種は、付着基質の形状が形態分化に与える影響を判定する事に適した研究材料である。本研究では基質への付着力を生息環境への適応の指標として用い、カキ殻上とホソウミニナ殻上それぞれの基質の上での2種のカサガイの付着力と殻形態、付着基質の形状との関係を考察した。その結果pygmaeaはカキ殻上で、conulusはホソウミニナ殻上で最大の付着力を示し、2種の異なる殻形態が付着基質への適応により生じたことが示唆された。


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