| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-051

熱収支から見る葉の形態の制限要因

*岡島有規, 種子田春彦, 寺島一郎(東京大・院・理)

物体の温度はエネルギー収支によって決まるため、エネルギー収支の解析は、温度の推定や、温度決定要因の特定に広く利用される。植物の葉についても、様々な光や気温などの環境条件におけるエネルギー収支式を解くことで、各環境条件において、水利用効率(光合成速度/蒸散速度)を最大とするような葉のサイズが求められた(Parkhurst & Loucks 1972)。しかし、彼らのエネルギー収支モデルには、葉の片面だけしか周囲とのエネルギー交換を行わないという数式上の誤りがあり、さらに水利用効率を指標としているにも関わらず、光合成速度を大雑把にしか求めていないなどの欠点があった。そこで、エネルギー交換が葉の表と裏の両面でなされていることを正しく表すエネルギー収支式を用いるとともに、葉の大きさ、風速、気温と葉温との温度差、などの違いに依存する対流パターンや、光合成・蒸散の温度依存性を新たに組み込んだモデルを構築し、解析した。これによって、気温が低く光が弱い環境では、葉が大きいほど水利用効率が良いという結果が得られ、Parkhurstらの結論が否定された。また、様々な環境条件における水利用効率が定量的に明らかになった。

環境が刻々と変化する非定常条件でエネルギー収支式を解けば、葉温の変化の様子が明らかになる。普段は林冠に光が遮られ暗い林床では、稀に射し込む直達光によって著しく葉温が上昇する。その際、薄い葉は面積当たりの含水量が少なく熱容量が小さいために、葉温上昇が激しく、含水量の多い厚い葉は、葉温上昇が穏やかになる。この温度変化速度の差の大きさによっては、葉の厚さの違いが、葉温上昇による傷害を受けるか否かに大きく影響すると予想した。しかし、葉の厚さの違いによる温度変化速度の違いは小さく、林床に生息する植物の葉の厚さの範囲内では、受ける高温傷害の程度に差があるとは考えにくい。


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