| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-060

熱帯林における土壌リン可給性と実生根のリン酸分解酵素活性の関係

*藤木 泰斗(京大・生態研), 北山 兼弘(京大・生態研)

土壌風化が進んだ熱帯林生態系では,植物にとって容易に利用可能な可給性無機態リンが少ないため,一次生産や物質循環はリン制限を受けているといわれている.そのような生態系では樹木の葉のリン再吸収率が高く,一次生産におけるリン利用効率が高まる.しかし,究極的には土壌からリンを獲得することが必要であるため,根にはリン獲得効率を高める機構があると考えられる.リン可給性の低い土壌では,リター由来の有機態リンが土壌全リンの高い割合を占め,そこからのリン獲得が樹木にとって重要である.本研究では,有機物からリン酸を遊離させる根の酸性リン酸分解酵素とリン酸吸収の際に重要な根表面積に着目し,土壌リン可給性の低いほど優占樹種の根の酸性リン酸分解酵素活性は高い,または根重あたりの根表面積(比根表面積)は大きいと考え,土壌リン可給性の異なる生態系の優占樹種で比較した.

調査地はマレーシア,ボルネオ島キナバル山中腹の土壌タイプの異なる3つのサイト(BB,PHQ,BU)である.3つの生態系は母岩の鉱物学的な違いと土壌成立年代の違いによって,土壌リン可給性がBB,PHQ,BUの順に上昇する.それぞれのサイトの優占樹種をBBから13樹種,PHQから13樹種,BUから11樹種選んだ.それらの樹種の実生から根を切れないように採取して,一定のpHで酸性リン酸分解酵素活性を測定した.さらに根が円柱であると仮定して根の投影面積に円周率を掛け合わせ比根表面積を算出した.

酸性リン酸分解酵素活性と比根表面積はサイト間で有意に異なり,リン可給性の低いBBで最も高く,PHQ,BUの順で低下した.このことから,土壌リン可給性の低い生態系では,優占樹種の根にリター由来の有機態リンを効率的に獲得する機構が備わっており,土壌―植物間のリン循環が閉鎖的であるため,土壌―植物間を循環するリンの利用効率が高まっていると考えられる.


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