| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-072

ハリエンジュliving wood fiberにおけるデンプン貯蔵の季節変動

*山田祐記子,藤田稔,粟野達也(京都大・農)

樹木の木部組織の主な役割は、水分の通導、樹体の支持、栄養物の貯蔵の3つである。広葉樹では、道管が通導、木部繊維が支持、柔細胞が貯蔵を担っている。木部繊維は二次壁肥厚後に細胞死を起こすと定義されている。しかし、一部の広葉樹では数年にわたり原形質を保持するliving wood fiber(以下LWFと略)という細胞が現れ、支持と貯蔵を兼任する。LWFの存在は、原始的とされるモクレン類から進化しているとされるマメ科に至るまでの、主に草本やツル植物で確認されている(Wolkinger, Holzforshung, 1972)。高木ではマメ科のハリエンジュとネムノキ及びカエデ科カエデ属の数種で確認されている。このようにLWFの存在は以前から知られていたが、詳細は明らかでなかった。

本研究ではハリエンジュ(Robinia pseudoacacia 別名ニセアカシア)を試料として用いた。これまでに、ハリエンジュでは当年に新生された木部の樹皮側約半分で全ての木部繊維がLWFとしてデンプンを貯蔵すること、LWFとデンプンを貯蔵しない髄側の木部繊維とで細胞の形態に差が無いことがわかった(山田ら,第59回木材学会要旨,2009)。今回は、LWFのデンプン貯蔵について、年間を通して試料採取し各種顕微鏡により観察した結果を報告する。

デンプンは全て柔細胞に貯蔵されているとの前提で化学分析により定量されることが多いが、本研究ではLWFと柔細胞それぞれに貯蔵されるデンプンを区別するため、横断面切片に過ヨウ素酸シッフ反応を施してデンプンを染色し、光学顕微鏡画像からデンプン量を半定量した。LWFはデンプンを夏から冬にかけて蓄積し、多量に貯蔵した状態で越冬し、形成層活動開始後に分解して細胞死を起こすことが明らかになった。また、LWFは木部当年輪に貯蔵されるデンプンのうち約6割を貯蔵していることがわかった。


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