| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-110

先んずれば花色を制す:花種間での送粉者獲得をめぐる競争における先取の効果

*川口利奈,大橋一晴,徳永幸彦(筑波大・生命環境科学),小沼明弘(農環研・生物多様性)

同所的に生育し開花期の重なる花種間では、しばしば送粉者の獲得をめぐる競争が起こる。しかし、一般に花種間には多少の開花期のずれがある。では、ある花種が他より一足先に開花して送粉者を先取していることは、送粉者の獲得競争にどのような影響をおよぼすだろうか。これまでに、見知らぬ花にはじめて出会ったマルハナバチなどの送粉者は、同種個体が訪問中の花と同じ花種を好んで訪れることがわかっている。よって送粉者を先取している花種は、ライバルの花種が開花したあとにも、同種個体に惹かれて集まる送粉者に花を訪れてもらえるかもしれない。我々は送粉者の先取にこのような効果があるかをケージ内実験で検証した。まず、白い人工花のパッチを訪れるようマルハナバチを訓練した。次に白い花の蜜の糖濃度を急激に下げ、新たに十分な糖濃度の蜜を含む黄色の花のパッチと紫の花のパッチを1つずつ出現させた。新しい2つのパッチのうち片方にはマルハナバチの死体を置くことで送粉者を先取させておき、白い花を訪れなくなったハチがどちらの花種を訪れるようになるかを調べた。いずれのパッチにもハチを置かなかった対照実験では、ハチが訪れたのは全ての試行で紫の花だった。紫の花パッチにハチを置いた場合にも、紫の花への訪問が圧倒的に多かった。一方、黄色の花パッチにハチを置くと、黄色の花への訪問も紫の花と同程度の頻度で起こるようになった。この結果は、植物が早咲きによって送粉者を先取しておくことには、ライバルの花種が開花してからも新たな送粉者に訪れてもらいやすくなる効果があり、その効果は花色などによって送粉者を誘引する力の強い花種よりも誘引力の弱い花種で顕著になることを示唆している。送粉者の獲得をめぐる競争においては、誘引力の不足を早咲きによって補うことが可能なのかもしれない。


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