| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-128

セイヨウオオマルハナバチの侵入に伴う送粉相互作用網の撹乱 ―隠れていた種間相互作用の露見―

石井博(富山大・理)

送粉生態系においては、訪花者達は口器の形態に応じて利用する花の種類を決めていると言われている(例えば口吻が長い種 <長舌種> は花筒の長い花、短い種 <短舌種> は花筒の短い花を利用する傾向がある)。しかし、異なる植物を利用している訪花者であっても共通の資源(花蜜など)を求めている場合が多く、資源を分割利用している状況は訪花者同士の競争の結果であるとも指摘されている。そもそも訪花者達は利用する花の種類を厳密に決めているわけではなく、植物との間に多種対多種の関係を築いているのが普通である。従って送粉系に対する撹乱は、それが単純なものでも、影響が系全体へ波及していく可能性を孕んでいる。本研究は、北海道に侵入したセイヨウオオマルハナバチ(以下セイヨウ)の事例から、送粉生態系の複雑さと脆弱性を提示する。

先行研究から、短舌種のセイヨウは長舌種であるエゾトラマルハナバチ(エゾトラ)の衰退を引き起こすことが示唆されている(Ishii et al 2008 Biol Conserv 141: 2597-2607)。そこで本研究では、セイヨウが定着した地域において、それ以外の訪花者達の行動がどう変化するのかを調査した。

調査はセイヨウが定着していない地点(A)とセイヨウが定着してエゾトラがいなくなった地点(B)において、シロツメクサ(短い花筒)とアカツメクサ(長い花筒)を訪れた訪花者の種類と数、花での行動を比較することで行った(in上富良野町)。その結果、地点Aではエゾトラがアカツメクサを、短舌種達がシロツメクサを正当訪花していたが、地点Bでは短舌種達がシロツメクサを見捨てアカツメクサから盗蜜(花の横に穴を開けて蜜を吸う行為)していることが観察された。

このことから、セイヨウの定着が長舌種エゾトラの衰退や短舌種訪花者達の行動変化を引き起こし、ひいては様々な植物種の繁殖に影響を及ぼしうることが示唆された。


日本生態学会