| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-166

有害捕獲により時空間的に変動するカワウの警戒性

*富永光(筑波大・生物資源),藤岡正博(筑波大・農技センター)

動物は、何らかの危険が接近してきたとき、経験やパッチの質などをもとに残留したときの利益やリスクと逃避したときのコストを評価して逃避開始距離(以下、接近可能距離)を決定するだろう。接近可能距離は野生動物保護区等の緩衝帯を設定する際の目安として野生動物保護管理の分野で応用されてきた。

近年、ウ類の捕食による内水面漁業被害は世界的な問題となっており、効果が十分確認されることのないまま銃器による有害捕獲が各地で行われている。もし銃器による捕獲がカワウの警戒性を高めるのであれば、他の被害防除の効果を高めたり、採食効率を低下させたりすることで、効果的な被害防除につながる可能性がある。本研究ではカワウ対策の規模や実施時期が異なる関東4県(山梨・群馬・栃木・神奈川)の代表的な河川で2008年の春季(アユの放流期)と秋季(アユの産卵期)に各2回ずつ観察者のカワウへの接近可能距離を調査した。

4県合計104回の実験について分析した結果、接近可能距離は県によって有意に異なり、栃木県で大きく、神奈川県で小さかった。また、接近可能距離は調査時期とは有意な関係はなかったが、県と時期の交互作用が認められ、山梨県と群馬県では有害捕獲等(主にロケット花火による追い払い)を実施した後に接近可能距離が大きくなり、時間経過にしたがって再び小さくなっていく傾向がみられた。一方、栃木県では接近可能距離が常に大きく、逆に、神奈川県では有害捕獲実施直後でも接近可能距離が小さいままであった。以上のことから、有害捕獲やロケット花火による追い払いによってカワウの警戒性を高めるためにはある程度の規模や持続性が必要なことが示唆される。また、カワウに害を及ぼさない人との接触頻度も影響している可能性がある。


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