| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-169

保全・復元の指標となる魚類相の時代変遷とそれを把握する試み 〜琵琶湖周辺の水田地帯を事例に〜

*金尾滋史(多賀町博/滋賀県大院), 前畑政善(琵琶湖博), 沢田裕一(滋賀県大)

ある地域の生物群集を保全・復元するために、その地域の生物相と生息環境に関する調査が実施され、それらの結果をもとに保全対策などが立てられている。しかし、その際の調査で確認された貴重種が保全されれば良いという訳ではなく、過去にどのような生物が生息しており、生物相がどのように変化してきたかを把握した上での保全、復元を計画していく事が望まれる。

そこで、本研究では、琵琶湖東岸の彦根市に広がる水田地帯を対象とし、そこに生息する魚類の現在の魚類相を把握した上で、30〜70年ほど前に生息していたと考えられる過去の魚類について聞き取り調査等を実施することで過去の魚類相を推察し、現状の魚類相との比較を試みた。

現状の魚類相は2003年から2008年の間、水田地帯内にある水田、小排水路、幹線排水路、河川、内湖の各水域においてタモ網、投網、モンドリを用いて魚類の採集を行なった。これらの結果、12科36種・亜種の魚類が確認された。一方、過去の魚類相は、聞き取り調査、アンケート調査等により31種が生息していたことがわかった。このうち、現状調査では確認されなかった種が8種存在しており、それらすべての種が滋賀県レッドデータブック2005年版において絶滅危惧種もしくは絶滅危機増大種に位置づけられている種であった。

現状調査で確認された魚種は、過去の魚類相とは種構成が異なっていた。このことは、地域の水田生態系保全を考えていく中で、現状の魚類のみを対象として保全・復元事業を進めていくことが適切なのか、という疑問を示唆するものである。これまでの保全事業では現状調査において採集されなかった場合は「知られざる種」として、保全対象として加えられないことが多い。生態学的な調査だけではなく、過去の魚類相についても環境社会学などの知見をふまえつつ並行して調べることが重要となるだろう。


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