| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA1-174

河川底生動物群集に及ぼす亜鉛の影響:許容可能な濃度をどう決めるか?

岩崎雄一(横国大院・環境情報), 加賀谷隆(東大院・農学生命), 宮本健一(産総研・イノ推), 松田裕之(横国大院・環境情報)

2003年に日本で初めて,水生生物の保全を目的とした水質環境基準が全亜鉛について設定された(淡水域は30μg/L)。さらに,この環境基準の維持・達成を図るため,亜鉛の排水基準が強化された。しかしながら,この水質環境基準は「水生生物の個体群レベルでの存続」をその目的として掲げている一方で,実際の基準値は個体レベルの影響を評価した室内毒性試験結果から導出されている(淡水域では,エルモンヒラタカゲロウの成長に対する無影響濃度)。そこで,本研究では,基準値の妥当性を検証する上での判断材料を得るために,河川底生動物群集を対象とした野外調査の結果に基づき,亜鉛濃度の影響を評価した。

上流に廃鉱山が存在する,兵庫県市川,宮城県迫川,山形県寒河江川の3水系における計25地点(約半数は亜鉛濃度が基準値未満)で,底生動物,水質,物理環境を調査した。調査地点の亜鉛濃度範囲は1〜1800μg/Lであった。本解析では,亜鉛の環境基準の目的である「水生生物の個体群レベルでの存続」の指標として,底生動物群集の種数(総種数,EPT種数,各目の種数)を用いた。亜鉛濃度以外の要因の影響をできるだけ排除して,亜鉛濃度の影響を評価するために,各目的変数について線形重回帰モデルを構築し, AICによるモデル選択(総当たり法)を行った。ただし,亜鉛濃度の影響については,分岐点が1つの折れ線回帰モデルを含めて検討した。

その結果,亜鉛濃度の影響については,すべての目的変数において,分岐前の回帰直線の傾きを0とした折れ線モデルが最適モデルとして選択された。いずれも分岐点は基準値の2倍程度(54〜68μg/L)であり,その95%信頼区間は18〜233μg/Lの範囲にあった。発表では,この濃度範囲における個体数の減少率についても報告する。


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