| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-428

気候変動はハリギリの分布・遺伝的多様性にどのように影響するか -最終氷期・現在・地球温暖化後-

*阪口翔太(京大院・農),櫻井聖悟(京府大院・生命環境),竹内やよい,山崎理正,井鷺裕司(京大院・農)

気候変動は生物分布域の拡大と縮小を繰り返しもたらしてきた。分布縮小に伴う集団の隔離は集団分化を促す一方、分布辺縁からの拡大によって確立した集団では創始者効果が卓越すると期待される。また、森林伐採や人為的土地改変は分布面積を減少させるだけでなく、パッチ間の連結を分断することで、集団の遺伝的多様性に負の影響を与えることが予想される。現在、こうした複合的な要因によって森林の分断化が起きている日本列島では、来るべき地球温暖化に際して生物分布の移行が妨げられ、結果として集団の存続可能性が低下する恐れがある。

本研究では温帯性樹木であるハリギリに着目し、日本列島における遺伝的変異と空間遺伝構造を、核SSRマーカーを利用して評価した。気候変動に伴うハリギリの分布変遷を再現するため、ハリギリの分布予測モデルを構築し、最終氷期最盛期、現在、21世紀末における分布適地を推定した。

ハリギリの遺伝的多様性は列島スケールでは南高北低のパタンを示したが、地域スケールではその傾向に反する集団が存在した。STRUCTURE解析の結果、列島の南北で優占遺伝子プールが入れ替わる遺伝構造が明らかとなり、北方で優占するプールほど祖先集団から浮動の影響を受けて分化していた。また、最終氷期最盛期におけるハリギリの古分布が北緯38度以南の地域に再現されたことからも、現在の東北日本集団が氷期逃避地からの分散によって確立した可能性が示唆された。

今回の発表では、ハリギリの遺伝的多様性における空間変異パタンには、ハリギリの古分布からの分散プロセスと現在の分布特性(集団面積やパッチ間連結性)が影響していると仮定し、それらの要因を定量して効果を検証する。そしてその結果を踏まえ、地球温暖化に伴ってハリギリの分布・遺伝的多様性がどのように変化しうるのかを議論する。


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