| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-444

一斉開花後28年間にわたるチシマザサ実生由来個体群のクローン動態

*齋藤智之(森林総研木曽),陶山佳久(東北大・農),西脇亜也(宮崎大・農),鈴木準一郎(首都大・理工),蒔田明史(秋田県立大・生資)

ササは長寿命・一回繁殖性植物で、一斉開花すると枯死する繁殖様式を持つ。近年一斉開花に関する情報は蓄積されつつあるが、一斉開花枯死したササの新たなコホートが、どのように群落を形成していくのか、それにはどれくらいの時間を要するのか、ということについてはほとんど明らかになっていない。また、ササは地下茎の伸長によって旺盛に栄養成長するため、クローナル植物としての平面的な広がりを考慮し、genet(クローン)を単位とした個体群動態を調べる必要がある。

本研究では、ササの一斉開花・枯死後の群落形成期におけるクローン動態を明らかにする。1979年に一斉開花し、1980年に実生発生した八甲田山のチシマザサ群落を調査地とした。開花当初に設置した1m2調査プロット10箇所において、これまでデモグラフィー調査を継続してきた。個体が地下茎を出現させた後、2000年からは全稈サンプリングにより分子マーカーを用いて被破壊的に稈の個体識別を行っている。

1980年に発芽した種子数は932.9個/m2で、その秋の実生数は584.0個体であった。これが2000年には17.2個体まで減少した。個体数は現在も減少し続けているが、更新初期ほどの減少割合ではない。

実生更新によるチシマザサ個体群は28年を経過してもわずかながら個体数が減少し続けている。個体数の減少が止まることで群落の安定状態とするならば、いまだに群落形成期と言える。また、地下茎の発達においては未だに単一稈でクローンを形成している個体も多数みられ、個体のサイズを指標にした場合は発達途上の群落と考えられる。今後も継続的な観察が不可欠である。


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