| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-526

生態系の融合―多様性と食物網構造への影響―

*吉田勝彦(国立環境研・生物), 時田恵一郎(阪大・サイバー)

大陸移動や気候変動などによって地理的な障壁が消滅すると、それまで独立に進化してきた生態系が融合し、生物の相互侵入が可能になる。このような現象はこれまでの地球の歴史の中で何度も起こり、その際に大規模な生物相の変革が起こる場合があることが化石記録から知られている。このような生物相の変革に対して、生物の相互侵入は大きな影響を与えたと考えられる。しかし化石記録に基づいた研究では生態系の融合と同時期に起こった環境変動の影響が分離できず、生物の相互侵入の生態系への影響は明らかになっていなかった。そこで本研究では、長期間独立に進化した二つの生態系を融合させ、生物が相互に侵入しあうようなコンピュータシミュレーションを行った。

生態系が融合し、生物の相互侵入が起きると、個々の生態系の種数は大きく増加する。しかし個々の生態系に固有な種の絶滅が起きるため、全体的な多様性は大きく減少する。全体的な多様性の減少率は移動可能な種の割合と強い相関があった。また、個体群内で隣の生態系に移動する個体の割合が増加すると全体的な多様性の減少率が高くなるが、この割合がある程度以上大きくなると多様性の減少率とは相関が見られなくなった。

融合後の食物網では相互作用が緊密になる。また、融合前に比べると最大食物連鎖長が増加する。最上位捕食者の割合は減少するが中間種の割合は増加する。最上位捕食者と中間種の相互作用の割合は減少するが、中間種同士、中間種と基底種の相互作用の割合は増加する。これらの結果は、強力な捕食者の侵入によって融合前に最上位捕食者だった種が中間種に格下げになったことを示している。

このように生態系の融合は、食物網構造を変化させること、個々の生態系の多様性を増加させるが、全体的な多様性を減少させることが示唆された。


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