| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-538

アカネズミにおける multiple paternity (複数父性)

*若林紘子(北大・環境科学院),野田悟志(北大・環境科学院),齊藤隆(北大・北方圏FSC)

Multiple paternityとは、一腹の子の父親が複数いることであり、その頻度は種や個体群によって異なる。Apodemus属のネズミでは、高頻度のMultiple paternityが多く観察されている。本研究では、マイクロサテライトDNAを用いて、アカネズミ(Apodemus speciosus)におけるMultiple paternityの頻度を明らかにし、低頻度のMultiple paternityが観察されているエゾヤチネズミ(Clethrionomys rufocanus)と比較することで、Multiple paternityの頻度に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。

2007年および2008年に北海道帯広市において、アカネズミの行動圏、体重、繁殖状況を標識再捕獲法により調査し、DNA分析のための組織を採取した。妊娠メスは出産まで飼育し、子の父性判定を行った。

アカネズミでは、Multiple paternityの頻度は78.3%と高い値を示した(n=23)。Single paternityの場合は子を残せたオスの行動圏はメスの行動圏と重複するか、隣接していたのに対し、Multiple paternityの場合はメスの行動圏から離れた位置にいたオスも子を残していた。一方、エゾヤチネズミでは、ほとんどの場合で、子を残せたオスはメスと行動圏が重複もしくは隣接していた。

以上より、アカネズミは、エゾヤチネズミと比較し、オスの社会関係が複雑あるいは不安定で、メス周辺にいるオスが頻繁に入れ替わることにより、高いMultiple paternityの頻度を示すと考えられた。


日本生態学会