| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第56回全国大会 (2009年3月,盛岡) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) PA2-543

アジアイトトンボの交尾器形態と受精嚢内における精子除去機構

*田島裕介,渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

蜻蛉目昆虫では、精子競争を避けるための雄の適応として、雄が雌の精子貯蔵器官内に貯蔵された精子を掻き出し、除去することがよく知られている。アジアイトトンボの雌の精子貯蔵器官は交尾嚢と受精嚢からなり、受精嚢は交尾嚢の基部付近と細長い受精嚢管によって接続している。一方、雄の精子を送り込むための器官である副生殖器の先端には、精子を除去するための鉤状の付属器がある。これまでの研究で、雄の副生殖器の付属器は雌の受精嚢管よりも短く、受精嚢内に到達できないことを明らかにした。したがって、雄による受精嚢からの直接的な精子の掻きだしは起こらない。しかし、実際には、交尾中に受精嚢内の精子は減少し、除去されていた。この結果は、受精嚢内の精子は副生殖器の付属器による掻き出しではなく、別の機構によって除去されていることを示している。副生殖器の付属器は受精嚢管に挿入することができるため、受精嚢管内の精子を掻き出して内部を陰圧にし、漏れ出てきた精子を掻き出していたのかもしれない。また、雌の内部生殖器には産卵時に卵が動いてきたという刺激を受け取って、受精嚢の精子を放出させる機能をもつ神経があるので、雄は副生殖器を用いてこの神経を刺激し、精子を放出させている可能性も考えられた。そこで、これらの仮説を検証するため、交尾中断実験を行ない、雄の交尾器の各部の形態を測定し、その雄と交尾していた雌の受精嚢内で発見された精子数との関係を調べたところ、副生殖器の先端部の幅が広かった雄と交尾した場合、受精嚢内の精子は除去されやすいことがわかった。この結果は後者の仮説を支持している。したがって、副生殖器の先端部の幅が広く、雌に強い刺激を与えることのできる雄は、多くの精子を置換できるため、精子競争において有利であると考えられた。


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